経営ハック

仮想通貨コインチェック事件を弁護士の視点で分析

2018年2月19日

仮想通貨コインチェック事件を弁護士の視点で分析

1.コインチェック事件の発生

平成30年1月26日、仮想通貨史上に残るであろう、コインチェック事件が発生しました。テレビコマーシャルでもお馴染みの仮想通貨取引所「コインチェック」において、同取引所が管理・保管している仮想通貨「NEM」が盗難にあいました。被害総額は、日本円換算で約580億円相当と、仮想通貨史上最大の被害金額となります。

前年の平成29年は仮想通貨元年と言われ、例えば、現時点での仮想通貨の基軸通貨であるビットコインは、1年間で15倍以上の値上がりを見せていました。その後、平成30年に入り暴落するも、「ビットコイン」、「仮想通貨」、「ブロックチェーン」、「分散型台帳技術」という言葉が、にわかに脚光を浴びてきた矢先の出来事でした。

私は弁護士としても、分散型台帳という技術や概念には、非常に魅力を感じています。そのため、個人的には、「仮想」通貨という言葉が、あたかも胡散臭いものという印象を与えかねないものである点で不満を持っており、決済手段や投機としての側面ばかりがクローズアップされ、分散型台帳技術が持つ可能性が世間に伝わっていないのではと感じています。私が考える分散型台帳技術の魅力については、また別の機会に記事を書かせて頂きます。今回は、法律家の端くれらしく、弁護士の視点から簡単にではありますが、コインチェック事件を法的に分析してみたいと思います。

2.コインチェック事件を分析

(1)利用者の気持ち

まず、コインチェック事件後の、コインチェック利用者の気持ちを次の通り整理します。

  1. NEMの盗難そのものによる経済的な損害を賠償して欲しい。
  2. コインチェックに預けている日本円の出金制限や取引制限を解除して欲しい。
  3. 出金制限及び取引制限による機会損失について、何らかの補填をして欲しい。
  4. 慰謝料を請求したい。

(2)利用規約について

このうち、『4:慰謝料請求』というのは、極めて限定的な場面でしか認められず、基本的には無理と考えておいた方がいいです。

1、2、3については、これを法的に請求しようとした場合に、皆様がまず気になるのは、コインチェックの利用規約ではないでしょうか。

  • 例)利用規約第14条第1項第4号
    ハッキングその他の方法によりコインチェック社の資産が盗難された場合には、登録ユーザーに事前に通知することなく、サービスの利用の全部又は一部を停止又は中断することができる旨が定められています。そして、同条3項では、この停止や中断といった措置によって登録ユーザーに生じた損害について一切責任を負わない旨が定められています。
  • 例)利用規約第17条第1項
    「当社によるサービスの提供の中断、停止、終了、利用不能又は変更、登録ユーザーのメッセージ又は情報の削除又は消失、登録ユーザーの登録の取消、本サービスの利用によるデータの消失又は機器の故障若しくは損傷、その他本サービスに関連して登録ユーザーが被った損害につき、賠償する責任を一切負わないものとします。」と規定しています。

これらの規定からすると、4どころか、1~3の請求さえ一切できないのではと考える方もいるのではないでしょうか。

(3)消費者契約法について

この点については、私は、消費者契約法により無効になる可能性も、十分検討に値するのではないかと考えています。

例えば、消費者契約法第8条第1項は、「次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。」と規定し、無効とされる例として、同条項第1号は「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項」を挙げています。

消費者契約法は、消費者と事業者との間の契約に適応されるものですので、もちろん、コインチェック利用者が「消費者」と定義されなければなりません。また、コインチェック事件について、何をもってコインチェック社の「債務不履行」と定義するのか、債務不履行と因果関係のある損害の範囲はどこまでか等、検討しなければならない事項は多岐に渡ります。

しかしながら、利用規約の条項について無効の可能性があるとすれば、それは、コインチェック利用者にとっては朗報ではないでしょうか。

3.私見~コインチェック事件の弁護士としての個人的見解

上記の通り、弁護士の視点からコインチェック事件の簡単な分析をしてみました。
しかし、冒頭で述べましたように、私自身は、分散型台帳技術については、極めて明るい未来を見ております。そのため、コインチェック事件が、この新しい技術の発展を阻害することになることは、全く望んでいません。むしろ、コインチェック事件を契機に、皆様が、仮想通貨だけではなく、分散型台帳という考え方や技術に興味を持ち、より一層社会の発展に繋がることを願わずにはいられません。

記事の執筆協力
瀧井喜博 弁護士/瀧井総合法律事務所
若手の弁護士として、敷居の低い法律事務所を目指しています。自他ともに認める人情派の弁護士として、依頼者の「困った」を「よかった」にすることを目標に、全力を尽くしていきます。

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