法人・個人問わず、開業時にネックとなるのがお金の問題です。せっかく有用な事業アイデアが浮かんでも、先立つものがなければ実現できません。
自己資金のみですぐに解決できれば問題はありませんが、運転資金や開業資金などお金の問題に悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
運転資金と開業資金は、それぞれ異なる段階と目的で使用されます。開業前に運転資金の種類や調達方法を理解しておくことで、ビジネスで成功を収めるのに役立てることができるでしょう。
今回は開業前に知っておきたい運転資金の種類や、調達方法について詳しく説明します。事業の継続的な成長を追求するために、適切な資金調達方法を見つけたい方は、ぜひ参考にしてください。
運転資金とは
運転資金とは、企業が業務を継続的に営んでいくために必要な資金を指します。一般的に日本は掛け取引が多く、収入と支出のタイムラグの間に発生した現金不足を補うための資金が必要です。
運転資金は、ビジネスの経常的な運営に関わる支出を賄うために使用されます。具体的には、資材や原材料の仕入れ、製品の製造費用、広告宣伝費、営業費など一般的な経費などです。
運転資金の適切な管理は、事業の持続的運営に不可欠であり、十分な運転資金を確保することで、倒産リスクや資金繰り悪化などの問題を回避できます。
開業資金との違い
運転資金と開業資金は、ビジネスの異なる段階で必要とされる資金であり、それぞれ異なる目的と性質を持っています。
運転資金は、企業が業務を継続的に遂行するために必要な資金である一方、開業資金は新しい事業を立ち上げるに関連する、初期費用や投資などに充てられます。
開業資金は、収益を上げるために必要な初期費用となり、事業計画の作成、設備や備品の購入、マーケティング活動、物品の在庫などが含まれます。適切な資金計画と管理を行うことで、ビジネスの順調な運営や成長を支えることが可能です。
設備資金との違い
設備資金は、ビジネスに必要な設備や備品など、物理的な資産の購入に関連する資金です。ビジネスの立ち上げや拡大に必要な資金として考えられますが、運転資金や開業資金とは異なる性質をもちます。
たとえば、運転資金は日常の業務遂行に必要な資金で、売上や経費の変動に応じて適宜調整されるものであり、開業資金は新規事業を始めるための初期費用を指します。
一方、設備資金は、ビジネスの長期的な発展や効率化を支え、ビジネスの成長や競争力を高めるために重要な資金です。
設備資金は土地や建物、ITシステムの導入、機械や設備の購入などの費用が含まれ、ビジネスの運営に必要な物理的なリソース確保など、決算上の資産と認められるものです。適切な設備の導入や更新は、生産性向上や品質向上、顧客満足度の向上などにつながるでしょう。
計算方法
一般的に運転資金は「売上債権 + 棚卸資産 – 仕入債務」で算出します。
売上債権 | 売掛金・受取手形など |
棚卸資産 | 商品・原材料・製品など |
仕入債務 | 買掛金・支払手形など |
ポイントなのは、日本は基本的に掛け取引が多いことです。
- 商品やサービスを仕入れる
- 仕入れた商品やサービスは売れるまでの間、倉庫などで保管する
- 商品やサービスの販売
- お金を回収する
商品やサービスを販売しても、後からお金を回収するので、売上の後に回収が発生します。同様に、商品を仕入れる際も仕入れと同時に支払うのではなく、掛け取引で後日支払います。
そのため、支払いを済ませ売上を回収するまでの間、事業が滞りなく行えるようにする必要があるでしょう。その間のお金は、売上債権 + 棚卸資産 – 仕入債務で算出した、運転資金で賄うことになります。
運転資金の必要額目安
運転資金の必要額は、事業規模や経営状態によって異なりますが、一般的な目安として約3〜6か月分を確保しておく必要があります。
運転資金を計算するだけでなく、自社に適した必要額を確保していなければ意味がありません。運転資金が適正かどうか判断するには、キャッシュ・コンバージョン・サイクルを分析する必要があります。
キャッシュ・コンバージョン・サイクルは、商品やサービスの製造または提供から、売上金の回収までの期間を指します。
商品を仕入れてから販売するまでの期間は資金が減少している状態であり、企業はできるだけ早く商品を販売して売上を回収しなくては資金繰りが厳しくなります。仮に資金力の強い企業であれば約1〜2カ月分の運転資金でも、運営は可能でしょう。
しかし、事業を続けていくなかで、トラブルはいつ起きるか分かりません。手持ちの資金が不足し、資金ショートを起こしてしまうと、倒産リスクも高まるため注意が必要です。
運転資金の種類
運転資金は収入と支出のタイムラグの間に、経営に不可欠な足りない資金を補うために必要な資金です。そのなかでも、運転資金が必要となる要因はさまざまです。それぞれの特徴について解説します。
運転資金の種類と特徴
- 経常運転資金
- 増加運転資金
- 減少運転資金
- 季節性運転資金
経常運転資金
一般的に運転資金は、経常運転資金を指す場合が多いです。経常運転資金とは、企業が現状維持をしながら、運営や業務を円滑に行うために必要な資金です。
増加運転資金
増加運転資金は、企業の業績拡大や事業成長にともない、増加した売掛金などの資金化までに発生する支払いに対応するための資金を指します。経常運転資金よりも追加で多くの資金が必要な場合に使われる資金が、増加運転資金と認識しましょう
たとえば、事業規模が拡大すると仕入れ量なども増加します。それにともない、顧客数の増加や経営を回すために人員増員や、事務所の拡張などの必要性も出てくるでしょう。結果、適切な経営を維持するために追加で仕入れや人件費などの資金が必要になります。
仕入れ代金が増加する一方で、売上など将来の利益が期待できることから金融機関からの融資も比較的スムーズに行えます。しかし企業が成長しているときに、十分な増加運転資金を確保できていないと、業務拡大や事業成長に悪影響を与えかねないので注意が必要です。
減少運転資金
減少運転資金は、事業規模縮小や売上の減少によって、困難になった支払いをするために必要な運転資金を指します。
たとえば、事業規模縮小などにより商品の需要が減ってしまうと、同時に売上も減少します。売上の減少にともない運転資金が不足したにも関わらず、人件費や賃料などの固定費は減少しません。
また、売上がよかったときに、仕入れた商品の代金を支払う必要があるかもしれません。支払いを継続するためには、追加の資金が必要となり、それを補うつなぎ資金が減少運転資金です。
確実に経営を軌道に戻せる見込みがあるのであれば、減少運転資金で収入と支出のタイムラグを埋めることができるでしょう。しかし資金不足が長期化すると、債務不履行や経営破綻のリスクが高まります。資金不足が長期化してしまう前に経営計画の見直しを行い、バランスを立て直すようにしましょう。
季節性運転資金
季節性運転資金の特徴は、特定の季節や時期によって需要が一定期間に集中し、その間だけ増加した運転資金が必要とされる点です。
たとえば、バレンタインデーやクリスマスなど、季節イベント商品の販売などが該当します。販売機会を損なわないよう、需要のピーク期に備えて在庫を増やしたり、スタッフを雇ったりするために活用されます。
ほかにも冬季と夏季のボーナスなど、人件費が膨らむことに対応する際も季節性運転資金に該当します。毎年決まった時期に必要となる季節性運転資金は、適切な管理と調達が重要です。
需要のピーク期に、顧客の要求を満たすために必要なリソースを確保し、需要が低下する期間には資金の使途を見直し、効率的に運用しましょう。
運転資金の内訳
運転資金の内訳は、変動費と固定費の2つの要素に分けることが一般的です。運転資金の内訳を変動費と固定費に分けることにより、ビジネスの収支や利益の動向を把握し、予算編成やコスト管理の効果的な判断が可能になります。
これにより、適切な資金の確保や、ビジネスの成長戦略を策定することができるでしょう。
変動費
変動費は売上の増減に比例して変動する費用であり、主に売上高や生産量などに応じて変化します。具体的な変動費の例としては、原材料費、仕入費、運送費、外注費、手数料などが挙げられます。
変動費は売上の増減に比例して発生するため、需要や生産量の予測に基づいて計算されることが多く、適切な予算とコントロールが求められます。事業計画や予算編成の際には、変動費を適切に見積もり、売上の変動に柔軟に対応できるようにしましょう。
固定費
固定費は、売上の増減に関わらず、一定の金額が毎月発生する費用です。具体的な固定費の例としては、賃料、リース代、管理費、減価償却費、給与、保険料など、主に事業運営に必要な経費を指します。
事業を計画する際には、これらの固定費を正確に把握し、収益の見込みとのバランスを考慮することが重要です。
運転資金の調達方法
資金調達方法は多岐にわたりますが、運転資金として利用できる融資を厳選して、4つ紹介します。
運転資金の調達方法4つ
- 新規開業資金
- 新創業融資制度
- 信用保証協会付融資
- プロパー融資
一般的に創業時に利用できる融資は、日本政策金融公庫の創業融資か、民間金融機関の信用保証協会付融資の2つです。創業時に利用したいと考えている方は、上記2つを確認してください。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、政府系金融機関であり、運転資金や創業融資のほか、災害復興、地域振興など、経済政策に関わる融資サービスを提供しています。
国の政策に基づいて融資を行い、小規模事業者や個人事業主でも相談しやすくなっています。融資条件を満たせば無保証人や無担保出融資を受けられ、比較的低金利で融資を受けることができるでしょう。
新規開業資金
新規開業資金は、新規事業の開業資金として利用することができる融資です。融資を受けるためには、創業計画書や事業計画などの書類を提出し、審査を受ける必要があります。審査では、提出された計画書の内容や事業の実行可能性、経営者の能力などが評価されます。
とくに、女性や35歳未満の若い世代の起業家には、利率の割引などの優遇措置が取られており、若い世代や女性の起業を促進するための支援策の一環です。
対象要件 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
返済期間 | 7年以内(うち据置期間2年以内) |
利率 | 1.02%~(条件によって異なる) |
担保・保証人 | 要相談 |
新創業融資制度
新創業融資制度は、設立2年未満の事業者に対して適応され、原則無担保・無保証・連帯保証人不要で利用できます。
また、通常2〜3か月ほどかかる融資審査が、新創業融資制度では約1か月半で融資実行されます。申請から融資実行までが早く、スピーディに融資が利用できるのが特徴です。
しかし、事業開始後税務申告の1期を終えていない事業者は、創業資金総額の10分の1の自己資金を保有する必要があります。仮に自己資金なしで申請する場合、自己資金が用意できない合理的な理由を説明できなければ、融資は通らない可能性があるので注意しましょう。
また、申請者が法人か個人かで、対象要件の考え方が異なります。法人の場合、事業開始後税務申告の2期は、第1期の決算から1年後が一般的です。個人の場合は、開業日から12月31日までが第1期となり、翌12月31日までが事業開始後2期以内になります。
新創業融資制度は、融資を受けるための条件が緩和されている分、事業の実現可能性や創業者の熱意など、ほかの融資制度よりも審査が厳しいので注意が必要です。
対象要件 |
|
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
返済期間 | ベースとなる融資制度に準じる |
利率 | 2.27%~(条件によって異なる) |
担保・保証人 | 原則不要 |
信用保証協会付融資
信用保証協会は、金融機関からの融資に対して保証を行う機関です。中小企業者などの資金調達を円滑にするために設立された公的機関であり、信用保証協会法に基づいて業務を行っています。
信用保証協会を利用することで、保証範囲内の融資を受けることが可能です。たとえば、事業主が金融機関から融資を受ける際に、信用保証協会が保証人として介入し、事業主の返済能力を補完することで、金融機関のリスクを軽減します。
融資の審査基準は金融機関に依存しますが、信用保証協会の保証がつくことで事業主が融資を受けやすくなり、審査のハードルが下がる場合があります。
対象要件 | 中小企業・小規模事業者 |
保証限度額 |
無担保:8,000万円 有担保:2億8,000万円 |
返済期間 | 金融機関によって異なる |
利率 | 金融機関によって異なる+保証協会に払う保証料 |
担保・保証人 | 原則不要(代表者保証が必要) |
プロパー融資との違い
プロパー融資とは、信用保証協会の保証を受けずに事業主が金融機関から直接融資を受けることを指します。プロパー融資では、各金融機関の審査基準に基づいて融資の判断がされるため、実績のある企業でなければ利用が難しいでしょう。
一方、信用保証協会付融資では、信用保証協会が一定の割合まで融資を保証するため、審査のハードルが下がる傾向にあります。
信用保証協会付融資 | プロパー融資 | |
融資方法 | 信用保証協会が融資の保証を行う | 銀行と事業主が直接取引を行う |
審査機関 | 金融機関と信用保証協会それぞれ | 金融機関 |
審査期間目安 | 2~3カ月程度 | 3週間~2カ月程度 |
融資限度額 | 無担保:8,000万円 有担保:2億8,000万円 |
各金融機関によって異なる |
まとめ
適切な運転資金の確保は、ビジネスの成功に不可欠です。融資を受けることはスタートであって、その後融資資金を効果的に活用し、計画通りの収益を上げて返済を遅延なく行うことが重要です。
適切な資金調達方法や必要な運転資金を見積もるためにも、専門家のサポートを受けることで、明確な事業計画や収支予測をまとめることができるでしょう。
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株式会社ファイナンスアイ(経済産業省M&A支援機関登録済)
代表取締役 田中 琢朗(たなか たくろう)
大手の金融機関・上場企業の財務部門責任者などを歴任し、2014年にファイナンスアイを創業。業界歴30年・創業10年のベテラン。中小企業・個人事業主・起業家と一緒に、現場で泥臭く汗をかいて靴をすり減らして財務を軸に経営者を支援し続け、のべ10,000人以上の圧倒的な実戦経験を持つ。ノウハウを「ファイナンスアイ式メソッド」として確立。中小にはびこる悪質なM&Aの被害をなくすために、M&A支援も本格化。売手・買手のいずれの立場からも真のM&Aを提供。現在も毎月150件以上の新規相談に対応し、毎週セミナーも開催中。日本経済のために今日も邁進しています。