事業をしていると、投資、融資、出資などの用語を聞くことがあります。それぞれについて漠然としたイメージを持っていますが、どのような違いがあるのか詳しく知らないという方も多いはずです。
経営するうえで資金調達は非常に重要です。投資も融資も出資も資金調達の手段になります。どのようにして事業に必要な資金を得るのか、その方法次第で自社の決算書や外部からの評価、信用情報などに影響する可能性があります。
今回はこれら用語の定義やそれぞれのメリット、デメリットなどについて解説します。違いを理解していただき適切なタイミングで適切な資金調達を行ってください。
投資・融資・出資の定義
まず、よく使われる「投資」「融資」「出資」の違い、定義について押さえておきましょう。簡単に言うと、「投資」のなかに「融資」と「出資」が存在しているイメージです。
融資も出資も投資の一形態になります。広い資金調達方法の概念が投資で、個別の方法が融資、ないし出資になります。
投資とは?
投資とは、第三者に対して将来的な利益を期待して行われる資金援助を指します。つまり、投資の結果、資金援助先の経営が改善し事業拡大し、売上が伸び利益が拡大することが前提になります。
投資はもともと「企業や個人へ資本を提供すること」を本意として用いられていましたが、現在では資金提供の行為全般を指すことが多いため、広義では融資と出資も投資に含まれています。
「投資家が〜」といったニュースを見ると、ヘッジファンドのようにリスキーなことをしているイメージがありますが、堅実に資金援助をして利益を得る大手銀行などの融資も投資になります。イメージよりも幅広い概念が投資になります。
融資とは?
融資は、金融機関から行われるお金の融通を指します。融資は借入なので、この資金融通の後に、返済が生じ利息の支払いが発生します。
融資はさらに公的融資と民間融資に分かれます。公的融資は国や自治体などが関わった公的機関からの融資を指します。日本政策金融公庫や自治体の「制度融資」が該当します。
自治体が主体となってお金を融資することは、一部の緊急貸付や生活資金困窮者向け融資以外はありません。自治体と地銀や信用金庫がタッグを組んで、利息の一部を自治体が支払うことで、借りる側の負担を下げます。
民間融資とは銀行やそれ以外の消費者金融などから資金を借り入れることです。消費者金融のビジネスローンも融資のカテゴリになります。
一般的に民間融資よりも公的融資の方が借入した際の利息は安価になっています。
出資とは?
出資とは、「投資家」が企業へ株式と引き換えに行う資金提供を指します。一般的には、投資家が企業の株式を購入することで資金の提供が成立します。上場企業が株式市場で株式を売り、投資家や一般の人が購入するやりとり(株式売買)の結果、株価が上がり資金を調達できます。
投資家は、出資した企業の成長によって得られる株式の配当や、キャピタルゲイン(株式の資産価値上昇から生まれる利益。株を安く買って高く売ることで得る利益)を得ることを目的にしています。
出資は株式購入だけではありません。ベンチャーキャピタルからの資金援助や株主配当増額なども出資に該当します。
一方、社債の発行や私募債の発行は、株式発行とは異なり、出資ではなく融資のカテゴリになります。一般人や投資家から債券を発行してお金を借りるので、返済しなければならないからです。
「融資」と「出資」の違い
広義には融資も出資も投資に含まれ、基本的に同じカテゴリであることをご理解いただけたはずです。しかし、融資と出資には違いがあります。
資金調達方法の分類で見ると、融資は「デットファイナンス」と呼ばれるものであり、一方、出資は「エクイティファイナンス」と呼ばれるもので明確に区別されます。
※本記事の(融資、出資を含めた資金調達方法のまとめ)にそれらを表にまとめています。
それでは要点を絞って、融資と出資の違いを見ていきましょう。
資金提供者の違い
融資の資金提供者は、銀行をはじめとした「金融機関」です。
一方、出資の資金提供者は、個人投資家をはじめとした「投資家」です。
金融機関は銀行法や貸金業法の規定をクリアし、資金提供しています。
しかし出資の投資家は、誰でも資金提供できます。
主にベンチャーキャピタルや個人投資家、元手となる資金さえあればさまざまな人が資金提供ができます。そのため誰からも資金提供を受けられる反面、リスクが生じる場合があります。
資金提供を行う目的の違い
融資は、返済時に発生する利息による「利益の獲得が目的」です。
出資は、資金提供先の事業成長による「株式の配当金獲得や株式売却によるキャピタルゲインの獲得が目的」です。
融資は利息を融資した相手に課し、それを自社の売上、利益にします。
一方、出資は利息のように確実に回収できる保証はなく、出資した事業者に何かあり、いきなり経営が悪化して会社が倒産しリスクを負ってしまう可能性があります。
返済義務の有無の違い
融資は、返済する義務があります。
しかし出資は、原則として返済義務はありません。
どちらもお金を受け取る点は共通していますが、出資者と融資元へのリターンがそれぞれ異なります。
融資は、返済と利息を支払うことで、貸し手に還元することになります。
一方、出資は、事業を成長させ、株価を上げ株主配当やキャピタルゲインで還元することになります。
財務諸表上の扱いの違い
融資は「負債」として扱われるのに対して、出資は「純資産」として扱われます。
安易な負債の増加は会社の外部評価を悪くします。それだけ債務を背負うことになり、過剰な融資(借入)は返済義務によって自社の経営を圧迫してしまいます。
出資の場合は自己資本になるので、自己資本比率が上がり、会社としての「体力」が上がることになります。プロパー融資のメリットとデメリットをまとめました。
資金調達方法の違い
融資には、以下のような資金調達方法があります。
融資による資金調達
- 公的融資
- 銀行融資(民間銀行や信用金庫)
- 保証協会付き融資
- ノンバンク融資(消費者金融)
それぞれメリットやデメリットがあります。公的融資は利息が安く返済負担が少ないのですが、審査に時間がかかります。ノンバンク融資は審査が優しく資金調達までの時間が短いのですが、高い利息を支払うことになります。
出資は、以下のような資金調達方法があります。
出資による資金調達
- ベンチャーキャピタル
- エンジェル投資家
- 個人投資家
ベンチャーキャピタルとエンジェル投資家は「プロ」なので、投資の価値なしと判断された場合、出資を受けられません。
エンジェル投資家とはスタートアップ企業専門の投資家です。
個人投資家は株式市場で株式を売買する一般人も含みます。
融資を受けるメリットとデメリット
融資によって資金調達する(借りる側)メリットとデメリットを押さえておきましょう。
融資を受けるメリット
融資を受けるメリットは以下2つになります。
融資を受けるメリット
- 経営の自由度が高まる
- 低金利で借りられる
経営の自由度が高まる
出資を受けると株主になり、株主総会などで発言権を行使できます。
融資は株式を保有されるわけではないので、経営に意見を言われることは、まずありません。
銀行からのアドバイスや銀行への相談程度ならありますが、強制力はありません。また、公的融資や銀行融資の場合は消費者金融と比較して低金利(1%台〜)で融資を受けられます。利息の支払いもそこまで経営を圧迫しません。
融資を受けるデメリット
一方、融資を受けるデメリットは以下3つになります。
融資を受けるデメリット
- 返済と利息の支払い義務がある
- 審査がある
- 担保や保証人が必要な場合がある
返済と利息の支払い義務がある
借りた資金の返済義務と、利息を支払う義務があります。利息の支払いがあるため、融資額よりも多い金額を期限までに返済しなければなりません。
審査がある
融資を受けるために審査を通る必要があるうえに、審査自体に時間がかかります。
担保や保証人が必要な場合がある
経営状態が悪い場合は担保や保証人が必要となることもあります。
融資をするメリットとデメリット
融資する側、主に銀行や信用金庫のメリットとデメリットについても簡単に押さえておきましょう。
融資することによるメリット
期限通りに返済される可能性が高い
融資する段階で融資先の返済能力を重視しているため、審査によって、返済の可能性が高い企業にしか融資を実行しないからです。
融資することによるデメリット
返済されなかったときのリスクがある
審査によって返済能力がなさそうな事業者には融資しませんが、それでも突発的に何があるかわからず、貸し倒れになるリスクをゼロにはできません。
基本的に返済されるものの、万が一返済が滞ったり、返ってこなかったりする可能性があるため、備えておく必要があります。
出資を受けるメリットとデメリット
出資を受け、資金調達をしたい事業者のメリットやデメリットについても知っておきましょう。
出資を受けるメリット
出資を受けるメリットは以下2つになります。
出資を受けるメリット
- 返済義務がない
- 事業の成長への支援を受けられる
返済義務がない
出資は負債ではないため返済義務がありません。出資者は融資と違い利息が目的で投資しているわけではないので、「毎月○○万円の返済+利息」を支払う必要はありません。事業が出資によって成長して、それにより株価が上がる、株式の配当がある、こういった事業としてリターンをすればよいのです。
事業の成長への支援を受けられる
伸ばしたい事業があっても資金がないときに、借入し返済する余力がなくても、成長戦略、事業計画がしっかりしていれば、出資者が資金提供してみようと感じるため、支援してもらえる可能性もあります。
合わせて、出資者は出資先に成長してもらいたいという目的があるため、事業や業界について情報提供も受けられる可能性もあります。
出資を受けるデメリット
出資を受けることはメリットだけではありません。デメリットについても知っておく必要があります。デメリットは以下の2つになります。
出資を受けるデメリット
- 経営の自由度が減る
- 資金調達のハードルが高い
経営の自由度が減る
融資の場合、銀行はビジネスと割り切ってお金を貸し利息で利益を得ますが、出資の場合、出資者は金銭的な利益以外の目的を持っている場合があります。
株式によって資金調達をすると、出資者は株主になり所有株式に応じて経営に対して発言権を得て、会社の株式の過半数を得た株主は、その意向で会社の経営、人事、M&Aなどを行える権限を持ちます。会社を乗っ取られてしまう可能性があり、経営に介入されないためには株主の意向に沿った(従属した)運営が必要です。
こういった経営の自由度が減る可能性があり、最終的には実力行使されてしまう状況になる場合もあります。
資金調達のハードルが高い
成長が見込める事業や分野でないと資金援助を受けにくいこともあります。いい意味で安定している業種業界には積極的に出資して伸ばすことは難しく、出資者が見つからないこともあり得ます。
将来性に期待してお金を出すのが出資のため、ビジネスと割り切ってお金を貸す融資とは違います。
出資をするメリットとデメリット
出資をする側、つまり個人投資家やベンチャーキャピタルにとってのメリットは何なのでしょうか?またデメリットも理解しておきましょう。
出資をするメリット
企業に対して、積極的に出資するメリットは以下の2つになります。
出資するメリット
- リターンによる利益が見込める
- 経営に関われることがある
リターンによる利益が見込める
出資した企業の成長による株式の配当額獲得や、株式売却によるキャピタルゲインの獲得によって、利益が見込まれます。成長とともに利益も比例する場合があるため、見込んだ企業への出資が株価上昇や株主配当というリターンとして戻ってきます。
経営に関われることがある
持株比率次第で、企業経営に関われるようになります。株主総会での議決権や株主提案を通してその会社へ影響力を発揮できます。正当な目的を持って企業経営に関わりましょう。
出資をするデメリット
利益を得られない可能性がある
融資の場合は、融資先の事業実績にかかわらず利息を受け取れますが、出資の場合、出資した事業・企業が成長しなければ、利益を得られません。
もしも出資先が倒産すれば、元本保証どころか、株式はただの紙きれとなります。出資先からの返済義務がないというリスクがあることへの意識が必要です。
融資・出資以外の資金調達方法
資金調達は融資や株式発行(出資)以外の方法もあり、場合によってはそちらを選ぶ方が良いケースもあります。融資、出資以外の資金調達方法の代表的なものを紹介します。
ファクタリング
最近用いられるようになった資金調達方法です。ファクタリングは、自社の売掛金をファクタリングサービス先に売却し、キャッシュを得る方法です。
「売掛金100万円を2か月先に受け取る権利」(入金サイト2か月の請求書)を期日前に、ファクタリング会社に80万円〜90万円で売却します。売掛金期日前に迅速な資金調達が可能です。ファクタリングは融資ではないので、銀行法や利息制限法、総量規制などの適用は対象外です。
臨機応変な対応ができますが、ファクタリング利用者を保護する各種法規制もないため、もしも悪質なファクタリング会社に騙されてしまうと法外な手数料を支払うことになります。
売掛金内での資金援助しか得られない点に注意してください。売掛金がない場合、ファクタリングは利用できません。
クラウドファウンディング
不特定多数の人から支援してもらう方法です。メディアなどでも取り上げられることが多く、インターネット上で寄付を募ります。
クラウドファンディングには以下5つの方法がありますが、ほとんどは「購入型」と呼ばれるもので、「○○をしたいので合計▲▲▲万円寄付してください」という申し出に対して一定金額を寄付します。
クラウドファンディングの5つの方法
- 融資型
- 株式投資型
- 不動産投資型
- 購入型
- 寄付型
寄付型クラウドファンディングは、見返りを期待しない本当の寄付ですが、メジャーな購入型クラウドファンディングは、目標額が達成されると、リターンとして商品やサービスが提供されます。
あるイベントを実現させたくて購入型クラウドファンディングをした場合、目標額が達成されると、寄付額に応じて「主催者や芸能人と2ショット写真や会食」「特等席案内」「記念品に名前掲載」などの特典を提供します。
あるものに興味がある人によって価値がある特典を提供できれば、希望額が集まります。しかし、目標額が達成されない場合、寄付とならず返金しなければならないケースもあります。それにかかる事務費用は自腹になることもあり、リスクを伴います。
出資と違い、経営に介入されることなく、自己資金や売上の確保を行えます。目標額の適切な設定と寄付額の達成に自信がある方はクラウドファンディングを資金調達の選択肢にしてみてください。
融資、出資を含めた資金調達方法のまとめ
これまで述べてきたことを表にまとめました。
資金調達方法の種類 | メリット | デメリット | おすすめできる人や企業 |
アセットファイナンス →ファクタリング | ・資産を無駄にしない ・決算書のオフバランス化 ・債務者のリスクヘッジ | ・そもそも活用できる資産がなければ利用できない | ・多様な資産を持っている ・休眠資産を有効活用したい ・心配な取引先がある |
デットファイナンス →融資 | ・誰でも利用できる ・会社の経営に口出しされない ・金融機関と取引履歴ができる | ・返済ができなくなるリスク、利息負担 ・信用情報に傷がつくリスク、金融ブラックリスク ・負債が増える | ・経営が安定し事業計画が立つ ・他人に頼らず自分で堅実経営をしたい |
エクイティファイナンス →出資、クラウドファンディング | ・返済義務がない ・資金使途が比較的自由 | ・株式を多数取得され、経営に介入されるリスク | ・起業をしたい ・新規事業を始めたい ・ベンチャー企業 |
投資と融資、出資の違いについてのまとめ
以上、融資と出資の比較を中心に解説しました。どちらも投資として有力な資金調達方法ですが、負債が増える融資と純資産(自己資本)が増える出資では、貸借対照表の数字や外部評価が異なります。
負債にならない出資の方が良いのでは?と思われるかもしれませんが、出資は投資家からの支持が必要で、経営に介入されるリスクを持ちます。
融資は利息を含めた返済が不可欠ですが、トータルで見ると返済原資さえ確保できれば低リスクの資金調達方法になります。
「可能な限り利息が安く、低金利の融資」が望ましいですが、それを可能にするためには諸条件があり、また別の記事で解説します。
みなさんの会社の資金調達タイミングやその時の経営状況、どのような資金が必要なのかによっても融資が良いのか、出資が良いのか、投資家を頼るのか、金融機関を頼るのか変わります。
即断せず慎重に、どの投資によって資金調達すべきか考えてみましょう。
ファイナンスアイの強み 大切な事は全てお客様と一緒に戦った実戦経験で学びました。 記事・コンテンツの監修者 株式会社ファイナンスアイ(経済産業省M&A支援機関登録済) 大手の金融機関・上場企業の財務部門責任者などを歴任し、2014年にファイナンスアイを創業。業界歴30年・創業10年のベテラン。中小企業・個人事業主・起業家と一緒に、現場で泥臭く汗をかいて靴をすり減らして財務を軸に経営者を支援し続け、のべ10,000人以上の圧倒的な実戦経験を持つ。ノウハウを「ファイナンスアイ式メソッド」として確立。中小にはびこる悪質なM&Aの被害をなくすために、M&A支援も本格化。売手・買手のいずれの立場からも真のM&Aを提供。現在も毎月150件以上の新規相談に対応し、毎週セミナーも開催中。日本経済のために今日も邁進しています。
代表取締役 田中 琢朗(たなか たくろう)