起業しやすい環境となった昨今、新たな事業で開業を考えている人もいるでしょう。しかし開業する場合に気になるのが資金です。
新規で事業を立ち上げるには、人の雇用や必要な設備など、分野に応じた額の資金が必要です。自己資金で足りない場合は、銀行などからの融資も考えなければなりません。事業の開始にあたってどの程度の資金が必要になるのか、また自己資金の目安を知っておくことは非常に重要です。
本記事では、起業する際に係る業界別の開業資金と、目安としたい自己資金の比率について詳しく解説します。
とくにその新規事業の業種や規模感によっては、スタッフの雇用が必要になるケースがあります。社員として採用するべきか、アルバイトとして採用するべきかでも違いはありますが、いずれにせよこれまでにない負担や責任が生じます。
ぜひより正確な情報を把握して、新たなチャレンジを計画しましょう。
自己資金の定義
自己資金とは、自身の名義の通帳で貯めたお金で、返済の必要がない資金のことです。他の金融機関から受けた融資や、親族や友人から借りたお金は自己資金には含まれません。
一般的に自己資金として認められるのが、自身が貯めてきた通帳預金です。事業によって得た収入が毎月一定の金額で貯蓄されていれば、立派な自己資金といえます。
また配偶者に同意を得た場合は、配偶者の通帳預金も含まれます。ほかにも、自身の退職金や資産の売却益、またすでに事業の準備で使ってしまったお金なども自己資金とみなされます。
一方で、親や親族から贈与されたお金の場合は、贈与契約書を作成し、返済義務がないことを契約上で明らかにする必要があります。ただし、贈与契約書を作成したからといって必ずしも自己資金として認められるわけではないことは、念頭においておきましょう。
自己資金は、金融機関などから融資を受ける場合にその担保となるものとして、非常にしっかりと審査されるポイントの1つです。資金があるように見せかけるいわゆる見せ金などはすぐにバレてしまうので、しっかりと着実に自己資金の形成を進める必要があります。
自己資金を含む新規開業に関する実態調査
新規に開業する場合、開業費用と資金調達額はどのくらいかかるのでしょうか。ここでは2021年に日本政策金融公庫総合研究所が行った『2021年新規開業実態調査』の結果にもとづいて見ていきましょう。
平均資金調達額:1,177万円
同調査によると、2021年に新規開業した事業者の平均資金調達額は、1,177万円となっています。これは1991年の調査開始以来、もっとも少ない金額です。
このなかで自己資金は282万円となっており、全体のおよそ24%となっています。また全体のなかでもっとも大きい割合を占めるのが金融機関等からの借入です。こちらは803万円となっており、全体の68.3%を占めています。
平均借入額:803万円
平均資金調達額における金融機関等からの平均借入額は803万円で、全体でもっとも多い68.3%を占めています。この「金融機関等」には、日本政策金融公庫、民間金融機関(ただし信用保証協会付融資となる。)、地方自治体による制度融資、公庫や地方自治体以外の公的機関が含まれています。
またここ10年程度の推移を見ると、平均借入額が大きく変わっていないのが特徴です。たとえば2011年の平均資金調達額は1,413万円と、2021年と比べておよそ240万円大きな金額です。
金融機関からの借入額は2011年が840万円で、2021年が808万円と、この10年でさほど大きく変化していないのが特徴です。金融機関等からの資金調達はそのときどきの景気などに左右されにくく、安定して借り入れることがわかります。
自己資金:282万円
2021年の調査では、平均の自己資金は282万円となっており、これは1991年の調査開始以来3番目に低い金額です。2019年、2020年に続いて自己資金額が低下しており、資金の多くを借入に頼っていることがわかります。
平均資金調達額の全体が低下していることからもわかるように、自己資金だけでは新規開業が難しく、金融機関などからの借入が非常に重要といえるでしょう。
融資を受けるために必要な自己資金の目安
融資を受ける場合に気になるのが、必要な自己資金の目安です。借りたい金額に対してどの程度の資金を用意したらよいのかわからないという人も多いのではないでしょうか。
ここでは必要な自己資金の目安について、2つの例を紹介します。
3分の1
一般的に言われているのが、金融機関などから融資を受ける場合は、融資額の3分の1の額を自己資金として用意するということです。ただし自己資金は金額だけを見られるわけではなく、それを蓄えてきた継続性なども収支の安定性の判断材料とされます。
一定の黒字を出し続け、その一部分を自己資金として貯めてきたことが、事業口座を通じてわかるようにしておきましょう。
10分の1
日本政策金融公庫の創業融資制度などの場合は、10分の1という非常に低い自己資金の比率で融資を受けられる場合があります。新規に事業を始める人を対象としているため、資金を借りやすいように無担保や無保証といった負担の少ない条件が設けられています。
業界別に見る開業資金の目安
新たに事業を開業する場合、どのくらいの資金が必要になるのかは業界ごとに異なります。とくに新たな分野に進出する場合、想定している開業資金が適正な範囲であるかどうかを事前にしっかりチェックしておきたいものです。
ここでは業界別の資金の目安について解説します。
店舗を必要とする事業の場合
店舗を必要とする事業の場合は、店舗の借入費用と内装や設備の費用が大きくかかります。
たとえば店舗の借入費用を考えた場合、保証金として10か月分の家賃が必要となるケースが一般的です。また初月はその月と翌月分をまとめて払う必要があるため、2か月分の家賃を用意しなくてはなりません。またこのほかにも、礼金や仲介手数料もかかります。
一般的に12〜14か月程度の費用がかかる計算となり、家賃だけでも初期費用として非常に大きな資金が必要になります。
また日本政策金融公庫総合研究所の「2021年度新規開業実態調査」によると、2021年の開業資金の平均額は941万円で、中央値は580万円となっています。
また業界ごとに見てみると、資金が必要な事業の上位にあるのが病院やクリニックで、医師が開業する場合は1億円以上もの資金がかかることが一般的です。飲食業は店舗の大きさや宣伝の規模などによってかかる費用に差が出やすく、200万円程度で開業できるものから1,000万円近くかかるものまでさまざまです。
店舗を必要としない事業の場合
店舗を必要としない事業の場合、開業資金は大きくかかりません。ライターやデザイナー業の場合は、必要な機器やソフトウェアだけで事業を始められます。
また通信販売などの場合も、在庫の大きさや数によっては事務所や倉庫を用意せずに事業を始められます。
いずれの場合も、店舗にかかる費用がかからないという点で、開業資金を大幅に圧縮できます。PCやプリンタ、コピー機、デスクや椅子を揃える必要はあるものの、数万円から50万円程度の資金で事業を起こせることも珍しくありません。
個人で事務所を開く場合
コンサルティングや士業などを自宅で開業する場合も、店舗を必要としない開業とほぼ同じです。
初期費用としてかかるものも、PCやプリンタ、デスク類のみで、そのほかには士業の場合に必要になる登録費用が主な費用です。いずれにしても、店舗が必要な事業と比べると、資金はほとんどかかりません。
自己資金として認められるもの
金融機関などから融資を受ける場合、自己資金がどのくらいあるかは重要なポイントです。融資元は財務状況の健全性などを判断するもののひとつとして、自己資金を見ます。
この額に応じて、融資額などの諸条件が変わるため、何が自己資金とみなせるのかは、非常に重要なポイントです。
ここでは自己資金として認められるお金について、順に紹介していきます。
貯金
自己資金の代表的なものが自己の貯金です。預金通帳に記帳された貯金はお金の流れが明確であり、貯金の計画性や継続性も含めて審査の際に評価されやすいものです。
一方で現金で保管している、いわゆるタンス預金は同じ貯金であっても資金の流れが明確でないため、自己資金とは認められません。
配偶者名義の通帳預金
配偶者がいる場合、あらかじめ同意を得ていれば、配偶者名義の通帳預金を自己資金にできます。融資の審査にも配偶者の預金通帳を提出でき、自身の名義の通帳と同様に自己資金として審査を受けられます。
退職金
退職金も自己資金にできます。退職金は金額が大きく全額が一度に口座に振り込まれるため、見せ金のように見えてしまう場合があります。
退職金を自己資金とする場合は、退職した勤務先から発行された源泉徴収票を提出するなど、お金の流れが不正なものでないことを証明できるようにしておきましょう。
みなし自己資金
みなし自己資金とは、創業・開業のためにすでに使ってしまった経費を、自己資金とみなしてもらうものです。この場合は対象の事業のために使った経費であることを証明できる領収書などが必要です。
また対象となるのはあくまで対象の事業に関連する経費のみです。関係のない用途で購入したものや、別の事業によるものなどは対象となりません。
贈与金
審査は厳しいですが、親族や知人から贈与されたお金も自己資金として認められる場合があります。この場合の贈与とは、文字どおり相手にお金やあげることで、返済などの義務なくお金をもらった状態のことを指します。
贈与金は必ずしも自己資金とみなされるわけではなく、送った親族や知人の財務状況や、贈与金を除く自己資金の額によって総合的に判断されます。自分が計画的に貯めてきた資金がまったくなく、贈与金だけしかない場合には、計画性がなく収入に継続性がないと判断されてしまうため、自己資金として扱ってもらえないことがほとんどです。
贈与金はまとまった金額を受け取ることが多く、見せ金と間違われやすいため、自己資金として認めてもらいにくいです。したがって、自己資金として認めてもらいたい場合は、最低限贈与であることの証明として、贈与契約書などを用意する必要性があります。
資産を売却した資金
資産を売却して資金を作った場合にも、自己資金と認められます。資産形成をしてきたことが、事業資金を作ってきたことと同等にみなされるため、通常どおりの資金と判断してもらえます。
保険の解約返戻金
生命保険などを解約した場合の返戻金も、自己資金とみなされます。保険に加入している場合は、解約時にいくら返戻金が受け取れるか確認してみましょう。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、特定の相手を対象に新株を発行し、直接資金を調達する増資の方法です。株の発行なので、株式会社を経営している場合に限られます。
また、第三者割当増資を行ったタイミングや状況にもよりますが、実質的には借入や見せ金として懸念が残ってしまう場合がありますし、創業者の保有株式割合や出資者の役員就任状況によってはそもそも当該事業が創業者のものであるのかという根本的な問題となる可能性もあるので、第三者割当増資を自己資金とする場合、総合的に十分検討する必要があります。
自己資金として認められないもの
融資を受ける際に、自己資金として認められないものがあります。次に該当するものは自己資金には当てはまらないため注意してください。
タンス預金
預金通帳に記帳しておらず、現金の状態で保管しているいわゆる「タンス預金」は、自己資金として認められません。タンス預金は現金の流れが明確でなく、どのような経緯で手元にあるお金かがわからないため、自己資金とは見なされません。
借りたお金
他人から借りたお金は自己資金ではありません。返済しなければならないため、親族や友人など親しい人からの借入金であっても、自己資金とは見なされません。
見せ金
見せ金とは、資金があるように見せかけるために一時的に都合したお金のことを言います。融資を受ける際に自己資金として見せることを目的に借り入れたお金や、別の口座から一時的に移動させた資金は見せ金と判断されます。
見せ金は法律で禁止されている行為です。融資の審査でも、関連する口座を調べて、一度に大量の金額が振り込まれるなどの不審な形跡がないかまでチェックされます。
融資どころか法的なペナルティが課されかねない行為なので、絶対に行わないようにしましょう。
自己資金が足りない場合の開業資金の調達方法
自己資金が不足する場合は、融資などによって十分な開業資金が調達できない場合があります。このような場合には、開業資金を調達するために次のような方法があります。
出資
親族や知人から出資してもらうという方法があります。親や身内、友人知人などから資金を募ることで、資金を間に合わせます。
この場合に注意しておきたいのが、出資された資金が贈与なのか借入なのかという点です。借入の場合は返済義務が生じます。またこの場合は、借用書などの作成が必要になるでしょう。
一方の贈与の場合は、金額に注意が必要です。年間で110万円を超える贈与は、課税の対象となります。課税対象は110万を超過した分のみですが、多額の資金を出資する場合には課税額に注意が必要です。
また贈与の場合は最低限、贈与契約書を作成しておく必要があります。100%ではありませんが、融資の審査の際に自己資金として認められる場合があり、審査前に受けられれば資金調達の金額が上がる可能性があるので、贈与のタイミングは気にしておくとよいでしょう。
フランチャイズ
自己資金が足りない場合は、フランチャイズに加盟するのも方法のひとつです。フランチャイズでは独立開業時に援助を受けられる場合があります。
フランチャイズは、とくに資金面での援助が手厚いのが特徴です。フランチャイズ本部が低金利の自社ローンを設けていたり、金融機関からの融資が得られやすくなるよう仲立ちをしてくれたりなど、さまざまな支援が受けられます。
補助金・助成金
国や自治体では、開業資金のための補助金や助成金を用意しています。創業者を支援する目的で設けられているため、返済の義務がないのが特徴です。しかし受給されるのは経費を使った後なので、自己資金の一定分を手元に残しておかないと、運転資金が枯渇してしまう場合があります。
創業融資
創業融資とは、政府が管理する日本政策金融公庫などが実施する融資制度で、金融機関などと比べて融資を受けやすいのがポイントです。融資される資金は無担保無利子と創業者にとって非常に有利にできていますが、審査に通過しないと融資は受けられません。
また、制度によって細かな条件や対象の内容が異なるため、制度の意義や対象条件の確認は必須です。融資を受けるための条件が他の金融機関と比べて緩和されている分審査が厳しく、見込み客や売上の計画に対する判断がシビアなので、創業計画をしっかりと練り込むことが審査を通過できるかに直結します。
まとめ
新規に開業する場合、業界によっては多くの開業資金が必要です。融資を受けるにあたっては一定の自己資金が必要になりますが、受けられる融資の総額は自己資金によって変わってきます。
資金が不足する場合は自己資金が貯めるまで待つのもよいですが、ビジネスでは商機を逃さないことが大切です。自己資金に対する融資額が大きい創業融資を積極的に活用するのもよい方法でしょう。
とくに個人事業主の場合は資金が不足することが多く、事業を拡大する場合にすべてを自己資金でまかなうことはあまり現実的ではありません。そうした場合に頼りになるのが融資のプロである資金調達サービス会社です。資金調達サービス会社のなかには、年商1,000万円未満の企業・個人事業主の融資コンサルティング経験が豊富なところもあります。
そうした資金調達サービス会社を選べば、自己資金が少なく心配な場合にも、経営状況や戦略などの現状に合わせて無理のない融資を実現できるでしょう。お一人で悩まず、融資に関する幅広いノウハウをもった資金調達サービス会社に相談してみてはいかがでしょうか。
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記事・コンテンツの監修者
株式会社ファイナンスアイ(経済産業省M&A支援機関登録済)
代表取締役 田中 琢朗(たなか たくろう)
大手の金融機関・上場企業の財務部門責任者などを歴任し、2014年にファイナンスアイを創業。業界歴30年・創業10年のベテラン。中小企業・個人事業主・起業家と一緒に、現場で泥臭く汗をかいて靴をすり減らして財務を軸に経営者を支援し続け、のべ10,000人以上の圧倒的な実戦経験を持つ。ノウハウを「ファイナンスアイ式メソッド」として確立。中小にはびこる悪質なM&Aの被害をなくすために、M&A支援も本格化。売手・買手のいずれの立場からも真のM&Aを提供。現在も毎月150件以上の新規相談に対応し、毎週セミナーも開催中。日本経済のために今日も邁進しています。