開業と似た言葉に、起業や創業などがあります。しかし、その違いを正確に把握している方は、意外と少ないのではないでしょうか?
昨今の働き方の多様化で、サラリーマン生活を辞めて、新しい事業に関心を持つ方も多いでしょう。新事業の開業には「開業届」を提出しますが、開業届にはどんな利点と欠点があるのか、あらかじめ把握しておくことが大切です。
そこで本記事では、開業・起業・創業の違いについて詳しく解説していきます。また、開業するまでの流れを具体的に紹介していきますので、これから開業を検討される方はぜひ参考にしてください。
開業とは
昨今、自分のお店を開きたい、脱サラしたい、フリーランスになりたいと考える方も増えてきています。開業とは、新しく事業や商売を始めていて事業を継続している、という意味合いを持ちます。
一般的に、医師や弁護士・司法書士・コンサルタントなどの資格や技能を持った人が、自分のクリニックや事務所などを開く場合に使われる言葉です。また、飲食店・ホテル・商業施設などがオープンしたときにも開業という言葉を使用します。
起業・創業・独立との意味の違い
開業・起業・創業・独立の4種類の言葉は、似ているように感じますが、意外と意味が異なる言葉です。開業と、起業・創業・独立という言葉には、どんな違いがあるのか気になるでしょう。
起業・創業・独立との意味の違いについて、以下の内容を解説します。
● 開業と起業の違い
● 開業と創業の違い
● 開業と独立の違い
ひとつずつ見ていきましょう。
開業と起業の違い
開業と起業の違いは、事業を開くか起こすかの違いです。どちらも意味の近い言葉ですが、使われ方が異なります。
開業と起業には、今も商売をしているかどうかという違いがあります。開業は、個人が新しくお店を開く場合や、何かしらの資格を持っている人が、自分の事務所を立ち上げることです。
いっぽうで、起業は今までにない会社を立ち上げ、新しく事業を始めるときに使われる言葉です。個人事業主を含む場合もあり、ベンチャーやスタートアップといった法人の立ち上げを指します。
開業と創業の違い
開業と創業の違いは、開業の方が創業よりも商売色が強いです。開業と創業は、両方とも新しく事業を始めることを意味しています。創業は、過去について話す際に使用する言葉であり、未来やこれからを指す場合には使用しません。
たとえば「来年、創業する」とは言わず「2020年に創業」という使い方をします。会社として法人登記をしているかは問われません。
個人・法人でも事業を始めれば、創業したといえます。会社で原材料の仕入れや開業の準備を行うことも創業といいます。
開業と独立の違い
新しく事業を始めるのが開業であり、勤めていた会社を退職して、自分でビジネスをするのが独立です。独立とは、ほかに頼ることなく、ひとり立ちする際に使用する言葉です。言い換えると、脱サラすることを指します。
会社から独立して個人で事業を始める、独立して自分の会社を作るなど、企業や組織に所属していた方が個人事業主になるときに、多く使用される言葉です。これまで組織に属していない方が新たに開業する場合は、独立とはいいません。
開業届を提出するメリット
個人事業主の方が開業届を提出すると、どんなメリットがあるのか気になるでしょう。開業届を提出するメリットは、以下の6つです。
- 最大65万円の税金が控除される
- 事業用の銀行口座を開設できる
- 小規模企業共済に加入できる
- 経費として認められる範囲が広がる
- 社会的信用を得られる
- 赤字を繰り越せる
最大65万円の税金が控除される
開業届を提出すると、青色申告ができて、最大65万円の税金が控除されるメリットがあります。最大65万円の税金が控除されるのは、以下のような方です。
- 事業所得がある方
- 事業的規模と認められる不動産所得のある方
税金が控除される所得は「事業所得」「不動産所得」「山林所得」の3つです。
青色申告は、税制上の特典が受けられる確定申告方法ですが、開業届と青色申告承認申請書を出さないと選択できません。少しでも節税をしたいとお考えなら、青色申告を選択するべきでしょう。
事業用の銀行口座を開設できる
開業届を提出すると、事業用として会社の名前が入った銀行口座を作れるメリットがあります。
個人名義の口座と屋号の入った銀行口座を分けると、収支管理がしやすくておすすめです。屋号が付いているだけで、事業を行っていると考えてもらえるため、信頼を得られ、取引先の不安を減らせるでしょう。
また、銀行口座を事業用とプライベート用で同一管理していると、仕分け作業が煩雑になってしまいます。そのため、事業用の銀行口座とプライベート用の銀行口座を分けておくとよいでしょう。
小規模企業共済に加入できる
小規模企業共済とは、個人事業主が引退したとき、積み立てた金額を給付金として受け取れる保険です。簡単にいうと、個人事業主向けの退職金制度です。
小規模企業共済に加盟する場合は、開業届の控えの提出が必要になります。事業の廃業・退職時に、今までの積立金を退職金として受け取れる安心感がメリットです。
また、掛金は所得の全額から控除できるため、小規模企業共済に加入して掛け金を積立するだけで、高い節税効果があります。事業の将来や資金繰りが不安な方は、小規模企業共済に加入しましょう。
経費として認められる範囲が広がる
開業届を提出して、個人事業主として働けば、経費として認められる範囲が広がります。主に以下の内容は、経費として計上できます。
- 家賃
- 水道光熱費
- 取引先との飲食代
- 文房具
- 事業で使用する通信代・電話代
また、家族への給与は、事業所得であれば事前に申し込むことで、全額経費として計上できます。
開業届を提出するかしないかで、経費の範囲が変わってきます。経費として認められる範囲が広がるという点でも、開業届を提出した方がよいでしょう。
社会的信用を得られる
開業届を提出しない場合でも個人事業主として働けますが、提出した方が社会的な信用を得やすいでしょう。具体的には、以下のようなメリットがあります。
- ローンやクレジットカードの審査に通りやすい
- オフィスの契約や融資の審査で開業を証明できる
- 持続化給付金など、個人事業主を対象とした給付金を受け取れる
開業届を提出すれば、さまざまなメリットがあります。身分の証明書類としても利用できるため、開業届を提出したら必ず控えをもらいましょう。
赤字を繰り越せる
青色申告により、事業で発生した赤字を最長3年間繰り越せます。赤字を繰り越せば、将来的に事業で所得を得た場合に、損失分を控除できるのはメリットです。たとえば、開業して2年目まで赤字の場合は、以下の通りに赤字を繰り越せます。
利益 | 累計額 | |
1年目 | -200万円 | -200万円 |
2年目 | -200万円 | -400万円 |
3年目 | 500万円 | 100万円 |
3年目で500万円の利益が出たとしても、1年目と2年目に発生した赤字額を繰り越しているので、100万円の利益に対してのみ所得税が発生する仕組みです。
赤字の繰り越しにより、大幅な節税対策になります。赤字を繰り越すには確定申告が必要であるため、赤字で収入がない場合でも必ず申告をしましょう。
開業届を提出するデメリット
開業届を提出するデメリットとして挙げられるのは、以下の4点です。
- 失業保険が受けられなくなる
- 扶養から外れてしまう可能性がある
- 記帳による雑務が増える
- 青色申告は手続きの手間が増える
失業保険を受けられなくなる
開業届を提出するタイミングによっては、失業保険を受けられない可能性があります。開業届を提出すると、その人は失業者ではなく、事業主として事業を開始したことになります。
個人事業主になるか会社員として働くか迷っている間は、開業届を提出しないほうがよいでしょう。なぜなら、開業届を提出したにも関わらず失業保険を受けてしまうと、不正受給として扱われてしまうからです。
扶養から外れる可能性がある
開業届を提出すると、扶養から外れる可能性があります。会社の健康保険組合により、以下の2パターンに分かれます。
- 開業した時点で扶養から外れる
- 一定の収入を超えると外れる
これから開業届けを出そうと考えている方は、加入している健康保険組合のルールを事前にチェックしましょう。開業者は扶養対象とみなされない場合は、保険が自己負担になってしまうので注意が必要です。
記帳による雑務が増える
開業届を提出するデメリットとして、記帳による雑務が増えてしまいます。帳簿に事業で発生した取引は、記載しておくべきです。個人事業主の場合は、青色申告でも白色申告であっても帳簿を付けることが必須です。
たとえば、納品を完了して発生したお金や、外注してかかった費用を帳簿に記載する必要があります。少しでも雑務を減らすには、以下の方法があります。
- 会計ツールを有効活用する
- 事業関係で使用する銀行口座を持つ
青色申告は手続きの手間が増える
青色申告をする際には、事前に税務署に申請をして、承認を得なければならない手間が発生します。青色申告をした年の3月15日までに、青色申告承認申請書と開業届を所管の税務署に提出しなければなりません。
また、簡易簿記ではなく複式簿記により正しく記帳し、その帳簿に基づいて申告し、数年間は保存しておく義務があります。
複式簿記は、簿記の知識が必要になるため、帳簿の作成は複雑に感じてしまうでしょう。ただし、最近ではクラウド会計ツールを使用して、自身で作成が可能です。
いっぽう、白色申告の場合は、事前に申請する必要がありません。記帳も簡易簿記でよいため、確定申告時の手間がかからないといえます。しかし、白色申告には特別控除がないため、節税を考えるのであれば青色申告を選ぶべきです。
開業するまでの流れ
お店を開こうと決めてから、実際に開業するまでにどんな手続きが必要なのか気になるでしょう。ここでは、以下の内容を解説します。
- 家族や会社への報告
- 事業計画書の作成
- 物件選び
- 資金・備品の準備
- 開業届の提出
1.家族や会社への報告
自身でお店を開こうと決意した後、家族へ報告して同意を得るのが重要です。家族の同意や協力を得られないと、経営難に直面したときに、従業員を雇うまではひとりで乗り切らなくてはなりません。家族からの支えがあってこそ、新事業に専念ができるでしょう。
また、会社員として働いていた場合は、会社への辞職の報告が必要です。辞職するタイミングにより、賞与や退職金が変わってきます。
これからお店を開くにはお金が必要であるため、賞与や退職金を多くもらえるタイミングで辞職するとよいです。お店を開くことを考えたら、家族や会社への報告をしておく必要があるといえるでしょう。
2.事業計画書の作成
金融機関から融資を受ける際には、事業計画書が必要になります。事業計画書とは、どのような事業を運営するのかとともに、売上・経費などの予算をまとめた書類です。事業計画書を作成していないと、事業内容をうまく説明できず、開業融資を受けることができません。
たとえば、飲食店で事業計画書を作成する場合、提供するメニューの特色、アピールポイントを記載し、競合とどんな点が違うのか詳細に記載しましょう。
自分のお店ならではの強みが伝わるように記載するのがポイントです。どんなメニューを提供し、どのくらいの売上になるのか、数字を用いて示すのも重要です。
事業計画書に記載されている内容次第で、金融機関から融資を受けられるかが決まります。飲食店を開く場合には、事業計画書を作成しておきましょう。
3.物件選び
物件選びは、開業するまでの流れの部分で、一番時間がかかります。すぐに物件が見つかれば、1年以内には無事に開店できる見込みがつきます。しかし、すぐに見つからない場合はオープンのタイミングが先延ばしになってしまうでしょう。
店舗を開業する場合は、どのような立地で物件探しをするかが重要です。物件の種類は、以下の2種類です。
- 内装のない「スケルトン物件」
- 内装や設備のある「居抜き物件」
立地・面積・物件によって、開業後の売上が大きく変わります。予算・コンセプト・スケジュールを考慮していき、慎重に検討するとよいでしょう。
4.資金・備品の準備
事業を行ううえで、必要な資金や備品の準備をしましょう。まず、自己資金だけで開業が難しい場合は、開業資金の調達が必要になります。開業資金を調達する方法としては、以下のものが挙げられます。
- 融資
- 補助金・助成金制度
- クラウドファンディング
また、店舗や事務所の内装工事を進めるうえで、開業に向けて必要な備品も揃えていくとよいでしょう。たとえば飲食店であれば、包丁やフライパンなどの調理器具、お客様用のテーブルや椅子など、さまざまなものが必要であるため、リスト作成が必要です。
5.開業届の提出
開業届は、事業を開始してから1か月以内に所轄の税務署に提出しなくてはなりません。また、青色申告をする場合は、開業後2か月以内に青色申告承認申請書を提出しましょう。開業届が受理されて、はじめて個人事業主となることができます。
ただ、業種によっては開業届以外に必要な書類があります。同じ業種で開業した人に聞いてみるのもよいでしょう。
まとめ
本記事では、開業・起業・創業の違いや、開業届を提出するメリット・デメリットについて解説しました。
開業届を提出して青色申告をすると、最大65万円の税金が控除されるメリットがあります。開業届を提出したことで社会的信用を得られ、ローンやクレジットカードの審査に通りやすくなるのも大きなポイントでしょう。
いっぽうで、記帳による雑務の増加や、青色申告の手続きに手間がかかってしまうデメリットがあるとお伝えしました。開業して新事業に専念するには、家族からの協力や理解を得て、根拠に基づいた計画を事前に立てることが重要です。
また、融資の審査には、実現可能な事業計画書が必要不可欠です。理想のみを追い求めていない、最適な事業計画書を個人で作成するのは、非常に困難でしょう。そのため、専門の財務コンサルタント による開業サポートを受けながら進めることをおすすめします。
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記事・コンテンツの監修者
株式会社ファイナンスアイ(経済産業省M&A支援機関登録済)
代表取締役 田中 琢朗(たなか たくろう)
大手の金融機関・上場企業の財務部門責任者などを歴任し、2014年にファイナンスアイを創業。業界歴30年・創業10年のベテラン。中小企業・個人事業主・起業家と一緒に、現場で泥臭く汗をかいて靴をすり減らして財務を軸に経営者を支援し続け、のべ10,000人以上の圧倒的な実戦経験を持つ。ノウハウを「ファイナンスアイ式メソッド」として確立。中小にはびこる悪質なM&Aの被害をなくすために、M&A支援も本格化。売手・買手のいずれの立場からも真のM&Aを提供。現在も毎月150件以上の新規相談に対応し、毎週セミナーも開催中。日本経済のために今日も邁進しています。